筑波大学
オリンピック・パラリンピック総合推進室

Office for the Promotion of Olympic and Paralympic Activities

最新情報

2020.04.10

運動栄養学研究室の活動をご紹介します(スイスチーム事前合宿における食事サポート)

本学の運動栄養学研究室が、2019年に本学で行われたスイスチームの事前合宿(5月:女子陸上リレー、7月・8月:トライアスロン)において食事サポートを行いました。

 

事前合宿の期間中、カスミ筑波大学店から食材提供のご協力をいただき、運動栄養学研究室に所属する学生たちはスイスチームのための献立作成と調理を行いました。

練習スケジュールの変更などが発生する中でも、毎日アスリートに配慮した出来立ての料理を提供し、筑波大学での食事はスイスチームから大好評でした。

 

筑波大学では所属や分野の垣根を越えて協力し合い、アスリートのサポートや社会貢献に取り組んでいます。

 

 

栄養研による本活動の報告を一部ご紹介します。

 

※本ページは、「筑波大学体育系紀要 第43巻」に掲載の内容について、運動栄養学研究室の同意の上、一部を抜粋し、本ページに合わせて語尾を変更するなどして掲載しています。

 

 

 

「2020年東京オリンピックに向けたスイス陸上競技選手事前合宿における食事サポート活動報告」

 

はじめに

 

海外の選手は、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会においても最大のパフォーマンスを発揮するために事前に日本の夏の特徴である高温多湿という気候等を体験し、事前の対策・準備に努めています。

 

コンディショニングにおける重要な要素の一つに、食事が挙げられます。

特に海外遠征時には不慣れな環境下での食事となることに加え、各国ごとの特有の食材や料理に対応することが難しいことなどが考えられ、適切な栄養素等の摂取が難しいことが少なくありません。

コンディショニングに対し、食事状況が妨げになるような状況を少しでも回避すべく、自国外での試合時の食事にはいつも以上の十分な注意が必要になります。

 

東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会の1年前(※2020年3月、大会の2021年への延期が発表されました)となる2019年に、スイス代表チームの、筑波大学における事前キャンプが行われ、そのキャンプ中の食事サポートを筑波大学体育系運動栄養学研究室が行うこととなりました。

 

 

対象合宿

 

春期はIAAF World Relays YOKOHAMA 2019(2019年5月11日~12日)に向けて、夏期はITUワールドトライアスロン オリンピッククオリフィケーションイベント(2019年8月15日~18日)に向けて事前合宿が行われました。

 

 

対象選手

 

本食事サポートは、春期および夏期の2回実施となりました。

春期は400メートルリレーを専門とする8名(女子選手6名、スタッフ2名)、夏期はトライアスロンを専門とする9名(女子選手3名、男子選手3名、スタッフ3名)が対象でした。

 

提供日はそれぞれ春期に5日間(昼食)、夏期に10日間(昼食または夕食)であり、筑波大学内での練習後すぐに食事が摂れるようにするために依頼を受けました。

 

 

サポート体制

 

本食事サポートは、筑波大学運動栄養学研究室のメンバーが献立作成を含む準備、食材等発注、および調理を担当しました。

 

メンバーには、日本代表チームの国内国外代表合宿帯同経験者、大学体育会選手の寮食担当などの経験を有する管理栄養士がおり、各日に主担当スタッフとして献立案を作成しました。

日ごとに担当スタッフが異なること、連日の提供となることから、メニューの重複が無いように全体ミーティングを行い調整し、合宿期間を通して統一性のある調味と平均栄養バランス等も考慮することができる体制を整えました。

調理および食事提供は筑波大学内調理室にて実施しました。

 

また本食事サポートの特徴的な点として、筑波大学構内に設立しているスーパーKASUMIより食材の提供を受けたという点が挙げられます。

調理室とKASUMIは徒歩10分弱の距離であるため、KASUMIと連携することで、食事提供当日の朝に食材を受け取り、選手に新鮮かつ安全な食事を提供することが可能となりました。

 

 

食事サポート内容

 

1)献立作成にあたって

外国人選手に対する食事サポートにおいて重要となることの1つに献立作成が挙げられます。

今回の食事サポートにおける献立作成において注意した事項は以下のとおりです。

 

①「栄養バランスを整えること」

 

主食、主菜、副菜2品、汁物、果物を基本形とし、献立を作成しました。

日本人選手を対象とした栄養指導においては、これまでの知見に基づく推定値を参考として使用し、競技特性や期分けを考慮して案件ごとに個別に提供エネルギー量の目安を設定します。

しかし、本サポート対象となるスイス人の体格や身体特性は日本人とは異なり、報告されている平均身長は日本人の平均を大きく上回ります。

加えて、練習内容や選手ごとに補食を摂っているかなどの栄養補給状況の差があり、提供する食事から摂るべき個人ごとの食事摂取量は異なるため、本食事サポートにおける献立はエネルギー量を約1000kcalを目安に作成しつつ、主食の量によって選手自身が全体量を調整ができる献立とした食事を提供しました。

食事において不足しがちなビタミン、ミネラル類はメニューに緑黄色野菜を積極的に組み入れることで不足が無いように調整しました。

また、たんぱく質源となる食材は、主菜の他に汁物や副菜にも入れることで、複数の種類から摂取できるようにしました。

 

食事の内容は、食文化が違う選手にとって、メニュー名だけでは伝わりにくいことから、調理室に入った時点ですぐに献立を把握できるよう、絵付きの献立表を作成しました。

その際、献立表には使用している食材も記入し、アレルギーの報告漏れなどがあった場合に、選手自身が気づくことができるように工夫をしました。

 

②「練習後でも選手が食べやすいこと」

 

食事バランスは、一食をできる限り食べ残しなく完食してもらうことで整えることができます。

そのため献立の内容は栄養バランスだけでなく、完食してもらうための配慮も重要です。

本サポートの一例としては、一食の中で食材や味付けの重複が無いように調整すること、冷たい食品と温かい食品の両方が揃うようにすることで、飽きがこないように工夫しました。

夏期の食事提供時は高温下における練習後の食事となるため、とくに食べやすさを考慮した冷たいメニューを献立に組み込みました。

食品の温度調整においては、提供時間を考慮したうえで調理工程を考え、温かいメニューは温かい状態で、冷たいメニューは冷たい状態で提供できるように努めました。

 

また、慣れない環境下での練習は、普段の練習よりも心身への負担が大きくなることが考えられます。

そこで、スイス人選手にとってできる限りなじみのある料理を提供できるように、和食に限らず、洋食を中心とした献立を作成しました。しかし、洋食中心にすると脂質の多い献立になってしまうため、食材選択や調理工程において、できる限り脂質を抑えるように心掛けました。

具体的には、ひき肉を使用した際、献立によっては牛肉や豚肉だけではなく、脂質の少ない鶏肉を使用し、また調理中に食材から流れ出る余分な脂は除去しました。

加えて加熱処置により損失が考えられるビタミン類を損失なく摂取することができる果物は、1食のなかで2種類用意する日を設けるなど、摂取量を追加できるようにしました。

 

写真:春期献立例(鶏ひき肉を使用したロールキャベツ)

 

 

2)KASUMI筑波大学店との連携について

本食事サポートにおいて、食材はすべてKASUMI筑波大学店より無料で提供をうけました。

KASUMI筑波大学店との連携を以下にまとめます。

 

・献立作成後、食材仕入れリストを食事提供の3日前までにKASUMIの担当者へ連絡

・食事提供日の朝に食材の受けとり

 (定休日の場合は前日中に受けとり)

・仕入れができなかった食材があった場合には、当日店内にある食品から選択し、別食材に変更

 

夏期の食事提供時は、選手が日本到着後に、小麦および牛乳アレルギーがあることが発覚したため、迅速な対応が求められました。

その際はグルテンフリーのパスタを特別に用意していただき、アレルギーのある選手に対してもできる限り他の選手とメニューが同じとなる食事を提供することができました。

 

 

3)食事提供後の評価、反省

選手からの食事の感想および残食量から判断した、食事の評価を紹介します。

 

高評価であった点として、イラスト付きの献立表は選手の関心を多く集めました。

選手にあまりなじみのない日本食を提供する際も、どのような食材が入っているのかを確認してもらうことができ、献立を見た段階で選手が食事に興味を示していることが感じられました。

 

高評価であったメニューとしては、「トマトベースの料理」「スパイシーな料理」「パスタ」「うどん」が挙げられます。

スイス選手にとってパスタやトマトはなじみ深いようで、おいしいという感想が多く見られました。

また、うどんは選手にあまりなじみがない食材であると考えられましたが、うどんの食感が高評価でした。とくに夏期に提供した「ドライカレーうどん」は、スパイシーな味付けとうどんの組み合わせが高評価でした。

 

さらに今回の食事サポートでは、KASUMI筑波大学店との連携により、新鮮な果物を多く提供することができました。

これは選手も非常に喜んでおり、「この果物はどこで買えるのか?」などの質問も出ました。

 

これに対して、あまり選手の食が進んでいない食材もみられました。

スープに入るほうれん草や小松菜など、調理後に軟らかくなるような葉物野菜は、残食が多くみられました。この場合はスープだけを飲んで具材を残していました。

また水菜のような、日本独特の生で食べられる食材においてもなじみがなかったのか、またほのかに感じる苦みが口に合わなかったのか、残食が多くありました。

 

 

全体を通して

 

今回実施された、春期・夏期の食事サポートは、献立作成および調理を担当した運動栄養学研究室のメンバーだけでなく、全体の調整を行ったオリンピック・パラリンピック総合推進室や、当日選手を誘導するアテンドの方々、食事サポートにあたり食材の納品をしてくださったKASUMI筑波大学店など、多くの人々の連携があって実現しました。

このように選手のサポートにおいては、多くの人々が関わるため、食事サポートチームも食事の準備だけではなく周りとの連携が重要であると再確認しました。

 

食事サポートにおいて、事前にアレルギー情報や人数、性別、体格、対象選手の競技特性などを事前に調査する必要がありますが、海外チームとの連絡は時差や言語の関係から円滑に進めることが難しいこともあります。

 

本サポートにおいては、多くの関係スタッフの臨機応変な対応・協力により成し遂げることができたと考えています。

選手本来のパフォーマンスを発揮するための食事面でのコンディショニング管理にはスタッフ間の連携は必須です。

 

 

終わりに

 

本食事サポートは、東京2020オリンピック競技大会にむけたスイスチームの事前キャンプに対して実施しました。

海外での日本人選手を対象とした食事サポートの報告はしばしばみられますが、日本での海外選手への食事サポートはオリンピックを目前としたこの時期だからこそ生じる特殊な事例です。

 

本事例のような、海外選手を対象とした食事サポートは時として、国内におけるサポート以上に、当日のスケジュール変更やアクシデントにより想定外の出来事が発生します。

臨機応変な対応を行うためにも、多職種のサポートスタッフ間での連携は最重要事項であり、この連携が円滑に達成できてこそサポートの成功があると考えられます。

 

 

 

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